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指先だけが知っている(ベッキョン)

2018.11.08 00:00|お誕生日記念三部作

正直出会った時は嫉妬しかなかった。その恵まれた美声と高音。そして歌唱力。勝てるところなんてないと思った。
だからあからさまに敵意を剥き出しにしたりもしたそんな10代の終わりの頃に比べれば、だいぶ自分は感情を隠すのが上手くなったなと思う。
とはいえ今もかなり俺は嫉妬に苛まれている。それは今、俺たちがレコーディングスタジオにいて、まさにガラスで仕切られた向こうにいるジョンデの歌声がこちらに聞こえてきているからだ。
しかしその歌声に少しばかり眉を潜めた。たぶんスタッフは気づいていないのだろうが、ジョンデの声の調子がいまいちだ。だから一旦休憩の声が掛かり、レコーディングルームを出てきたジョンデに、俺は小さな声で聞いた。

「調子悪いのか?」

調子の悪さを隠す為かいつも以上に笑顔を絶やさないジョンデに、ズバリに聞いた。本当ならもっと遠まわしに聞けばいいのだが、どうも俺はそういうことが苦手らしい。
だからジョンデもまた、少しだけ嫌そうな表情を見せた。ミキシングルームの少し硬いソファーに深く座り、被っていたキャップのツバを掴み、さらに目深にした。そして僅かに俯き、小さな声で答えた。

「別に」

その声に苛立っている気持ちが乗っていた。いつもなら絶対にこんな答えを返さない。もしかしたらなにかがあったのかと思いながら隣に座り背凭れに体を預けた。
ちらりとジョンデの方を見ればいつの間にか前傾姿勢になっていて、白いTシャツの背中が見えた。背骨がくっきりと浮き出ていた。自分とあまり変わらない体格だが、その体型はかなり違う。性格的にかなりストイックで鍛え方もそれに倣えとばかりで、背中にそれが現れている。そんな背中を見つめながら口を開いた。

「まだあの問題が解決しないのか?」

手元の楽譜を見ながらメロディーを口ずさんでいたジョンデだったが、俺の言葉を聞き、それが止まった。
そして俺に丸見えの背中越しに小さく振り返り、再び前を向くと息を吐き出した。

「たぶん一生解決なんてしないよ。」

少しだけ股を開き楽譜を持った手を太腿に置き、ジョンデは息を吐き出すのと同じ要領でそう言った。
俺はジョンデを向き、その姿をまじまじと見つめた。

どこをどう見ても男だよな、と思う。
確かに睫毛は長く、それが影を落とす瞳は大きく澄んでいるが、間違いなく男である。

「なに?」

そんな俺の視線に気づき、俺を見返し、そう言う声も、男そのものだ。
それなのに。

「いや、お前、男だよな、と思って。」

俺を真っ直ぐに見るジョンデに内心慌てていた。しかしそれを表に出さないようにして前を向き言った。
だがジョンデは俺を見続けている。それに気づいていながら、俺はジョンデを向くことはできなかった。

「そうだよ、男だよ。男なんだよ。そもそもそれわかってて、だろう?それなのにギョンスの奴…。」

言いながらジョンデが背を背凭れに預けた。そのバフっという小さな音に、俺は何故だか安堵した。
2人して前を向く俺たちの前をスタッフが通り過ぎて行った。俺たちは自然と口を噤んだ。

ジョンデとギョンスは恋人同士だ。そしてこの2人をくっつけたのは俺だ。
ジョンデのギョンスへの思いに気づいた俺がお節介をした、のだ。

そんな2人だが、付き合い始めてすぐから、あまり上手くいっていない。
とはいえ、上手くいってないながらも、もう付き合い始めて1年が過ぎている。

「…好きならどっちだっていいと思うけど…。」

また2人して前を向いたまま、俺は呟くようにそう言った。
それに対してジョンデは、あまり動じることもなく、やはり前を向いたまま答えた。

「俺もそう思う。けどギョンスは違うんだよ。だからそう思ってる、そう思える俺が…そっちでいいだろうって…。なんか屁理屈だよな?」

最後は疑問形で答えたジョンデは、両腕を上げキャップを被る後ろ頭でその手の指を組んだ。楽譜は俺の反対側に置いてあった。
ジョンデを通り越し、その楽譜を見た。けれどすぐにそのまま、ジョンデのブラックジーンズに包まれた脚に視線を移した。

ジョンデの一生解決しない問題、というのはギョンスとのベッドでの事情のことだ。
同性同士ということ故、ジョンデは所謂「女役」を引き受けているのだが、それを10回に1回でもいいから反対になりたいとギョンスに頼んでも、それを受け入れては貰えないらしい。
その理由が、今ジョンデが言ったことなのだ。

どっちでもいいと思えるならば、そっちでいいだろう。

俺は視線をジョンデの折れる膝頭から上にゆっくりと上げて行った。股間を通り、白いTシャツの上を舐めるように。
そして、角張った顎、薄い唇、すっと鼻筋の通った鼻、そしてくっきりとした二重の大きな目がある横顔に辿り着く。

やっぱり、好きだな、と思う。

確かに男なら好きな相手を組み敷いて、と思うだろう。
俺だって出来るなら、ジョンデをそうしてみたいと思う。

しかしそんなことはできない。
ジョンデはギョンスが好きなのだから。

「ベッキョンさん、チェンさん、すみません。急に機材がトラブってしまって、今日はもうレコーディングできそうにないです。」

ずっとジョンデの横顔を見つめていたらしい。目の前に立つスタッフの、そんな呼びかけに俺はハッとして顔を上げた。
そのスタッフから今後のスケジュールがどうなるという説明が続いていたが、その半分以上は頭に入ってこなかった。
しかしそんな頭で思ったのは、ああ今日はもうジョンデの歌声が聞けないのだなということだった。
そう俺はジョンデの歌声に猛烈に嫉妬し、その反面強烈に惹かれ、そしてこの男に恋をしたのだ。だからこいつの歌声が聞けないということは安心でもあり残念でもあるのだ。

そんなことを考えている間に、気づくとジョンデの楽譜は俺たちの間にあった。
そして不自然に置かれたそれの下で、ジョンデの指先が俺の指先に触れた。

俺は少しだけ首を横にしてジョンデを見た。
しかしジョンデはスタッフを見上げたまま、何事もないような顔をしていた。いつの間にかキャップのツバは上げられていた。

「今日は申し訳ありませんでした。ではまた後日。」

何がしかの説明が終わり、そう言ってスタッフはスタジオを出て行った。
気づけば2人きりだった。

「今日はもう修理業者も来れないんだってさ。」

そう言ったジョンデの楽譜は未だ俺たちの間にある。その下の指先も触れたままだ。
2人して言葉はなかった。やけにシンとしていた。
喉に溜まった唾を飲み込みたかったが、その音が響きそうでできなかった。

けれどそれも限界が来てしまう。

俺はぎゅっと瞼を閉じ、ごくりと唾を飲み込んで、楽譜の下の指先を伸ばした。
もしかしたら柄にもなく震えていたかもしれない指先は、冷たいのか熱を持っているのか自分ではわからなかった。
けれど伸ばした指先が捉えたジョンデの少し太い男らしい指先は、とても熱かった。

「俺は、どっちでも、いい。」

かなりの覚悟を持って放った言葉だったからか、自分の声が、やたら低く聞こえた。
しかしそんな覚悟を嘲笑うように、ぎゅっと強く捉えたと思っていたジョンデの指先が、するりと逃げて行った。
ジョンデの指先を失った自分のそれが、急に熱を失ったように冷えていくのがわかる。ああ、なんでこんなことを言ってしまったんだと、すぐさま後悔した。

そしてジョンデに俺の言葉の意味が通じていなければいいと思った。
だからばっと瞼を上げジョンデを向き、何でもないと言おうとした。

けれど。

楽譜の下の指先は、ぎゅっと強く熱い熱を持ったようなジョンデの手に握られていた。
常に垂れ下がっている優しげな目尻は、時折見せる強い意志を秘めた目を包み、そう見えなかった。
その目に見つめられ、熱い指先から熱が伝わり、そして薄い唇が動いた。

「帰ろっか、ベッキョナ?」

まるで歌うようにそう言った唇を目の前で見つめながら、頭の中で考えた。
今宿舎に帰ったら誰がいるんだっけ、と。

そして思う。誰もいてほしくない。
この熱を持ったまま、このまま帰りたい。

そうしてその先のことは、きっとこの指先だけが知っている。
この熱を持つ互いの指先だけが…。




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