【D・O センイル記念】思い込みの魔法(チャニョル)
2019.01.11 09:00|2019D・Oセンイル記念|
思い込みとは一種の魔法のようなもので、歩いても5分、走れば2、3分の距離しか離れていないギョンスの家から全力疾走で帰って来たチャニョルは、既にその魔法にかかっていたのかもしれない。
―――び、び、び、び、びっくりした~~~~~~!
元々運動神経はあまりよくないはずのチャニョルが有り得ない速さで走って帰って来るなり自分の部屋に滑り込み、その扉に背をつけたまま、心の中で叫びながらずずずっと座り込んだ。
ほんの数分前にギョンスの部屋で起こったことに、正直今だ頭はついていってはいない。しかし現実だということは、これまた有り得ない速さの自分の鼓動が証明しているような気がした。それが走って帰って来たからなのか、それともさきほどの出来事でのことなのかは定かではなかったが。
だが元々真面目ではあるが、あれほどまでにギョンスの真剣な眼差しは初めてだった。だから怒ることなんてできなかったし気持ち悪いとも思わなかった。ただギョンスが自分にそんな気持ちを持っていたなどまったく気付かなかったから、ただただ驚いたのだ。
「…ギョンスが俺を好きって…キスしたいって?彼女に嫉妬した?襲うかもって?…マジか…」
部屋の扉を背にしたままチャニョルは自分の唇や胸を確認するように触る。そしてどこをどう見ても自分は男だよなと確認する。
「俺、男だけど?」
顔が姉に似ているから女顔だと言われることはあるが、身長だって高いし肩幅だって体の厚みだって、それなりにある。だからいくら女顔だといっても、間違いなく男なのだ。
「ギョンスは男が好きなのか?」
目の前にいないギョンスに聞くように問いかけるが、それに答えてくれる者は当たり前だが誰もいない。そしてそう言葉にしてみると、それは違うような気がする。
「男が好きなんじゃなくて、『俺』のことが好きなんだ、きっと。うん。」
若干の自意識過剰とも思うが、あながち間違ってもいない。しかしそうは思うも、だからといって「俺も好き」とはならない。だが、今日できたばかりの彼女のことだって「好きか?」と聞かれたら首を傾げてしまう。そもそも向こうから告白してきて、それにOKしただけなのだから。
むしろその彼女とギョンスが目の前の崖に片手でぶら下がっていたら、ギョンスを先に助けてしまうかもしれない。いや、間違いなく助けるだろう。そのくらい向ける感情は違う。それが「恋愛か?」と聞かれたら、これまた首を傾げてしまうのだが。
「ええ~~、もしかして俺もギョンスのこと好きなのかな~~?」
だがそんなこと考え始めたら自分の気持ちが完全に迷子になってしまったチャニョルは、その場で頭を抱えた。そしてさらに考える。
―――ギョンスは俺とキスしたいって言った、襲いそうで怖いって言った…
だからチャニョルはギョンスとキスする自分を、ギョンスに組み敷かれている自分を目を瞑って想像してみる。するとそこへ先ほどの真剣な眼差しのギョンスが脳裏に突如浮かぶ。チャニョルはそんなギョンスを掻き消すようにばっと目を見開いた。しかしチャニョルの心臓はドキドキと鼓動を早めた。
「ええ~~、なんでこんなにドキドキすんの?!やっぱり俺ギョンスが好きなの?!」
どんどんと尻はずり下がり、もはや扉に背はついていない。申し訳程度に頭がくっついているだけで、ほぼ床に大の字になりつつある。そしてそのまま天井を見上げていたが、またしてもそこへ先ほどの真剣な眼差しのギョンスが現れ、チャニョルは妄想の中でギョンスに襲われそうになる。
「うわ~~~~~!」
慌ててチャニョルは起き上がり、さっきとは違う鼓動を刻む胸に手を当てた。そしてははは、と短い息をする自分を落ち着かせるように、その胸を軽く叩く。
「…俺、襲われるの?襲われちゃうの?ギョンスに?」
人間あまりにパニックに陥ると正常な判断ができなくなる、とはよく言われる。それがまさに今のチャニョルがそういった状況であるとはいえ、この時のチャニョルはもうギョンスの気持ちを受け入れている。そうすっかり思い込みの魔法にかかってしまっているのだ。そしてその魔法をかけたのは間違いなくギョンスである。そのギョンスはそんなこと思いもしていないだろうが。
「…襲われるってことは…俺、イレラれる方?そうなの?ギョンス、俺にイレたいの?」
そこでチャニョルはまたしてもハッとする。自分がおかしな考えに進んでいる、とハッとしたのではない。男同士のセックスの知識がない、ということにハッとしたのである。
―――ど、どこの穴使うかはわかるけど…それ以上は…
なんとなくのやり方はわかる。けれどそれ以上もそれ以下もわからない。そこでチャニョルはまたしても何かを思いつく。
―――そうだ!検索!検索!
そう思いポケットに手を突っ込むがどこにも目当てのスマートフォンがなかった。そしてまたしてもハッとする。
「あああ~~ギョンスの部屋のテーブルに置きっぱなし…」
パニック状態でギョンスの部屋を飛び出してきてしまったのでスマートフォンは勿論、通学のリュックも置いて来てしまった。それに気づき、またしても頭を抱えたが、チャニョルはすぐにあることを思い出し急いで立ち上がった。
「パソコン!パソコン!」
今現役で使っているノートパソコンは通学のリュックに入っているが、その前に使っていたものは机にしまってあるはず。それだ、と思い机に近づき目当ての引き出しを引くと、そこには少し古くなったモデルのそれがあった。
「頼むからついてくれよ…」
急いでアダプターを差し込み電源を入れ立ち上げる。いつもより少し時間がかかったがチャニョルの願いが届き、それは立ち上がった。そしてブラウザを開きポータルサイトの検索バーに「男同士 セックス」と入力した。
そこにはチャニョルの知らない世界が広がっていた。
~ギョンスの誕生日編に続く~
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