小さな世界=40(ベッキョン)


目覚めると少し頭が重かった。悲しいかな前日のことをきれいさっぱり忘れている訳もなく、ベッキョンは起き抜けに大きく溜息を吐いた。
枕元に無造作に置かれたスマートフォンを手に取ってみれば、そこには既読スルーしたはずのチャニョルから、再度メッセージが届いていた。
=ベッキョナ、寝ちゃったかな?明日バイト待ってるよ=
ベッキョンはもう一度大きく息を吐き出した。何がしかの返信をしようと画面に指を持って行ってみるも、やはりそれ以上指は動いてはくれず、諦めたようにもう一度スマートフォンをベッドに投げると、自分の体も投げ出した。
しかし学校へも行かなければいけない。チャニョルが待ち構えていると分かってはいるが、アルバイトだって行かなければいけない。
「……ああ~もう!」
全てのことから逃げたいと思いながらも、ベッキョンはそう小さく叫ぶと重い体を起き上がらせ、登校の準備を始めた。


何を思おうと何があろうと、時間が止まることはない。少しばかり心ここに在らずだったが、この日の授業も早々に終わってしまった。ベッキョンは今一度大きく息を吐き出すと、覚悟を決めるしかなかった。
「じゃあな!俺バイトだから!」
教室に残るに友人に分かりもしない覚悟を宣言するように少し強い口調でそう言うと、ベッキョンは教室を出て学校を後にした。
正直なことを言えば、何をこれほどまでにチャニョルと対峙することを恐れているのか、もうここまで来るとベッキョン自身よく分からなくなっていた。自分のマイノリティーを自覚した時の方が、よっぽど悩まなかったし恐れることなんてなかったのにと。
そしてそう思えば、段々と自分自身に腹が立って来て、ベッキョンは揺れる電車の中で強く拳を握り、口元もキュッと強く結ぶと、心の中で小さく「よっしゃ!」と自分に気合を入れた。
そうしてそのままの勢いでアルバイト先の更衣室兼休憩室に入って行くと、そこにチャニョルがいた。気合を入れ勢いをつけてやって来たベッキョンだったが、まさかここにいるとは思わず、些か驚き気勢を削がれた感がしないでもなかった。
「あっ!ベッキョナ、おはよう!ベッキョナの出勤時間に合わせて休憩貰ったんだ!」
しかも、ニコニコ顔でこんなことを言われた日には、あれだけ悩んで何かに恐れたような自分に本当に腹が立ってしょうがなかった。そして次の瞬間にはなんだか気が抜けて、ベッキョンは思わずがっくりと肩を落とし項垂れた。
「…ベッキョナ?えっと…さ…。」
さすがにこのベッキョンの態度にはチャニョルも何かを感じたのか、少しばかり慌て出したのだが、ベッキョンは項垂れた顔の下で、もう一度気合を入れると、何かを話し出そうとしたチャニョルの言葉を遮るように顔を上げ口を開いた。
「俺!チャニョリヒョンが好きだから!フラれたからってすぐに嫌いになんてなれないし、それに男同士で気持ち悪いとか思われても好きなものはしょうがないじゃん!だから!変な同情はしないで!優しくされると勘違いしちゃうし!ただでさえ彼女いるのにさ…。」
最後の言葉は少しだけ小さな声になった。チャニョルから直接「彼女がいる」と聞いた訳ではなく、ただ2人で歩いているところを盗み見たような感じだったので、なんで知っているんだと聞かれたらバツが悪いなと思ったからだ。
「えっ?彼女って?」
そして案の定、なんの心当たりもないと恍けるようにチャニョルが少し驚いたように言ったので、ベッキョンは気まずいなと思いながらも、前日のことを告げるしかなかった。
「昨日…あそこのファミレスの前…綺麗な人と歩いてた…」
楽しそうに笑っていたチャニョルを思い出す。そして一緒にいた人がとても綺麗な人だったということも。それを思い出した時、初めてと言っていいほどベッキョンは自分のマイノリティーを呪った。
「…あれ…姉貴…」
しかしチャニョルの口から出たのはこんな言葉で、ベッキョンはまたしても腹が立った。
「はぁ?なんで嘘つくんだよ!別に俺にくらい彼女だって言えばいいじゃん!そこまでして隠したら彼女が可哀想じゃん!」
これまでチャニョルが彼女の存在の有無をはっきりさせてこなかったことには、それなりの理由があるのかと思うが、さすが嘘までついて隠すことはないと思った。だが、そんなチャニョルが目の前でスマートフォンをささっと操作すると、すぐさま誰かに通話は繋がりスピーカーで話し始めた。
「あ、ヌナ?あのさ、昨日一緒に歩いてたよね?そんでさ、俺たちって本当の姉弟だよね?」
いきなりの問いかけとその内容に通話先の人物は訝しみ、そして鼻で笑った。
「あんたがバイトの後輩泣かせたからどうしたらいい?って泣きついてきたからしょうがなくバイト先まで行ってあげたんでしょうが!それに私たちが本当の姉弟じゃなかったら、私はあんたにもう少しだけ優しくなってあげるわ!って言うか、仕事中にくだらない電話して来ないでよ!私、新人アナウンサーなんだからね!忙しいのよ!」
一方的に答えを返し通話は切れた。そのスマートフォンを眺め、チャニョルは苦笑いをすると言った。
「姉貴、確かに顔は綺麗かもしれないけど、性格はめちゃくちゃキツイの!例え他人でも絶対付き合いたくないよ。」
血の繋がった姉を彼女と間違えたことは分かったが、だからと言ってなんだという気にもなる。確かにチャニョルの姉が言っていた「泣かせたバイトの後輩」は自分のことだと思うが、それだって本当のことなんて言えなかっただろうしとも思ったのだが、そうでもないらしいと次のチャニョルの言葉で思い直した。
「…とはいえ、姉貴にはなんでも話せるんだよね。あの性格だから姉貴っていうより兄貴って感じだからさ。そんでベッキョナのことも全~部包み隠さず話したんだ。そしたら一言「あんた、その子とキス出来る?出来るなら付き合ってみればいいし、出来なかったらもう1回ちゃんとフッテあげな」って。」
そして気が付けば、なんだか良く分からないが、話しは核心に触れていたようだ。きっと次にチャニョルから出てくる言葉は、決定的なものだろう。だからベッキョンはごくりと喉を鳴らすことしか出来なかった。もう覚悟は出来ているのだから。





ランキングに参加しています。よかったらぽちっとお願いします。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村



拍手、ランキングへのぽちっ、ありがとうございました。
関連記事

Comment

非公開コメント

| 2017.09 |
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

みむ子

Author:みむ子
K-POPグループEXOのBL妄想小説置いてます。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

デフォルトカウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

ページトップへ