「正×20=100」になったら=月が綺麗ですね


放課後の図書室。机ふたつ分の距離。俺を盗み見るような後輩の存在に気づいたのは4月の半ば。
いつも勉強を始める時にノートに書き込む日付に丸を付けた。

4月12日

その日から、どういったきっかけからかは分からないが、後輩は机ふたつ分離れた距離を少しづつ縮めてきた。
そしてとうとう俺の目の前の席にやって来た時は、もう制服も夏服に変わり、初夏の匂いが感じられる頃だった。

「僕オ・セフンといいます。ミンソク先輩」

真新しい真っ白い制服のワイシャツと同化しそうなほど白い肌だな、と目の前に座り自己紹介をしたセフンを見て思った。
それに名前くらい知ってる、とも。
でも俺は素っ気ない「おお」という短い言葉しか返さなかった。
そしてまたすぐに手元のノートに視線を落とした。




そんな出会いから時が過ぎ、セフンと付き合い始めたのは高校最後の夏休み、も終わりの頃。

「夏休みも先輩と会いたいです。」と言ってセフンは、俺の予備校の送り迎えを買って出ていた。頼んではいなかったけれど。
しかもくそ暑い真夏だというのに自転車で。しかし朝といっても既に真夏の太陽が照る暑い中と、夜といっても日中の熱気が残る虫の声が響くどことなく明るい夏の夜の中を、セフンは俺を後ろに乗せ涼しい顔をして、そのペダルを漕いでいた。毎日、毎日。

そして残暑といわれる時節を迎える頃には、なんとなくあいつの気持ちは伝わって来ていた。

毎日目の前にある広く大きな背中。時折振り返り様子を窺う優しい目。態度や言葉遣いには年下らしさが表れるのに、それをもってしても感じる包容力。
そのアンバランスさと予測不可能さに、振り回されている感も否めなかったのだが、ああ、俺も同じ気持ちかも、と、セフンの背中越しの満月が綺麗に見えた時に思った。

「月が綺麗ですね」

そしてふと思い出した過去の偉大な小説家の和訳が、つい口をついて出ていた。しかし原文の言葉を思い出すと恥ずかしさしかない。
だがこの言葉の真意をセフンが知っているとは思わなかった。だから言えた言葉と言ってもよかった。そうして俺は小さく笑った。

「死んでもいい」

けれど俺はセフンから返った言葉を聞いて笑いを引っ込めた。そしてゆっくりと自転車は止まり、セフンを俺を振り返った。

「先輩、昔の人ってロマンチックですよね。」

セフンがこのやりとりをどこまで正確に把握しているかは分からない。実際、このやりとりが交わされた訳ではないのだ。
しかし現代の文学少年少女の間では、お決まりの愛の言葉の交歓になっているのは確かだ。

「でも死んじゃったら、もう二度と月を綺麗だと言えなくなっちゃうじゃないですか。だから僕は死んでもいい、とは答えません。僕も先輩に言いたいです。」

俺を振り返っていたはずのセフンはいつの間にか月を見上げていた。だが、そこまで言うと、また俺に振り返った。
そして俺を真っ直ぐに見て、言った。




「月が綺麗ですね」




過去の小説家は「我君を愛す」を「月がきれいですね」と訳した。そしてもう一人の小説家は「あなたに委ねます」を「死んでもいい」と訳した。
このそれぞれに訳されたふたつの言葉が、現代では密かに告白の場面に使われたりしているらしいのだが、まさか自分が本当に使うとは思いもしなかった。

けれど「我君を愛す」など、けして口に出して言えないが、この言葉なら確かに言える、と俺は思った。




「月が綺麗ですね」




月を背にして俺を見下げるセフンに、もう一度この言葉を告げた。月明かりが逆光となり、その顔に明るさはなかったが、そこには二つの三日月が浮かんでいた。







~終わり~



ランキングに参加しています。よかったらぽちっとお願いします。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村


拍手、ランキングへのぽち、ありがとうございます。
関連記事

Comment

非公開コメント

| 2017.09 |
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

みむ子

Author:みむ子
K-POPグループEXOのBL妄想小説置いてます。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

デフォルトカウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

ページトップへ