小さな世界=42(ベッキョン)


いつもなら駅前からバスに乗るはずの帰路をベッキョンは走っていた。悠長にバスを待つことなど出来なかった。
しかしすぐに息は上がり、ベッキョンは道半ばでその足を止めざるを得なかった。
もう一歩も前に出そうにない足を膝から少し曲げ、その両膝に両手を乗せ下を向いた状態で体ごと大きく呼吸を繰り返した。
ここが道端でなかったら、その体をごろりと投げ出したいほどだった。けれど夕方の人の多い往来で、それはさすがに出来ることではなかった。
「…次のバス停まで歩こう…。」
落ち着いた息の元、体を起こし周りを見れば、バス停ひとつ分と少しは走ったようだった。
ベッキョンは大きく息をひとつ吐き出すと、足を前へと進めた。


辿り着いた自分の部屋のベッドに、ベッキョンは漸く自分の体を投げ出した。
そして虚ろに目を天井へと向けると、もう何日も前のようにも感じる、先ほどの出来事を思い出した。
「…あんなにガッツリするとか…ありえねぇ…」
正直、体が少々反応していた。タオと別れてから、すっかりセクシャルなものから遠ざかっていたということもあるが、それよりも何よりも、あれほどまでに下半身にズドンと来るような官能的なキスなど、ベッキョンはこれまで知らなかった。
それなのにチャニョルは何度もごめんと繰り返した。そしてその時のチャニョルの顔が、今はベッキョンの脳裏から離れない。
「…あんなのしておいてごめんとか、まじムカつく…」
天井など見てはいなかったが、そこへ向けていた目をベッキョンは自分の腕で隠した。
憤りや怒りのような感情と、切なく苦しいような感情が交錯したままだったが、急激に心と体に負荷がかかったのだろう、ベッキョンはそのまま深い眠りに落ちてしまった。


遠くで微かに響く一定のリズムを刻む音が、スマートフォンの着信音だと気づいたのと同時に、ベッキョンは自分が眠っていたことにも気づく。
どこかすっきりしない頭を抱え、ベッキョンは暗闇の中、音の鳴るそれを探す。
そしてようやく脱ぎ捨てた制服の上着のポケットに見つけると、そこに浮かぶ発信者の名前を確認した。
「…チャニョリヒョン…」
前日はラインのメッセージだけだったが、やはり今の状況は、それだけでは終われないということだろうか。
ベッキョンはいつまでも鳴り続けるそれを、覚悟を持って耳に当てた。
「…ベッキョナ?」
窺うような、それでいて優しい声で名を呼ばれ、ベッキョンは寝起きということも手伝い、上手く返事が出来なかった。
「バイトは心配しないでいいよ。店長には急に具合が悪くなっちゃったみたいって言っておいたから。それに今日、暇だったからさ…」
やはり上手く声は出なくて、ベッキョンは電話だというのに、小さく頷くことしか出来なかった。
しかし電話の向こうのチャニョルもそれが分かるのか、あえて聞いてる、とも問いはしなかった。
「…ベッキョナ?」
しばらくの沈黙の後、チャニョルがまたしても窺うようにベッキョンを呼んだ。
その先にどのような言葉が来るかなど、ベッキョンには皆目見当がつかなかった。白が来るのか、黒が来るのか。
ただ自分はどちらに転ぶことも望んではいないような気がした。ここまで来てしまっているというのに。
それでもやはりどちらかには進まなければいけない。このまま、ということはありえない。
だからベッキョンは張り付いてしまったような喉に開け、そこへ一度空気を送り込む。そして声が出るかを確認するようにして、そっとその声帯を震わせた。
「…なに?」
思ったよりも上手く声が出てくれた、とベッキョンは思った。
そしてもうどんな答えが来ても大丈夫だとも。その根拠は、どこにもなかったけれど。
「…会いたい…んだけど…今すぐ…」
だが予想もしない言葉が来て、ベッキョンはまたしても言葉を失った。




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