それでいい【『海に沈む森の夢』企画1・東方神起二次小説】

2017.07.29 09:00|企画もの

ざわざわと人の往来が多い中をユンホは、ふとチャンミンの姿を探した。
この日は事務所あげてのコンサートがあった日で、その打ち上げは店一軒を借り上げて行われていた。
お偉いさんの挨拶も一通り終わり、個々での挨拶と謝辞もほぼ終え、これからは仲間内での無礼講の時間という頃合いに移っていた。
特にチャンミンに用があった訳ではない。ステージ上では無二の相棒ではあるが、そこを降りれば若干話は合わない弟だし付き合う友人の趣も違う。それこそ全てが終わった今、今日はお疲れ様という、儀礼的な挨拶だけはしておこうという思いだった。
ラグジュアリーな店内はソファーとローテーブルの組み合わせがいくつも点在しており、ユンホは立ったままその中に視線を彷徨わせた。3つほど先にあるそれにチャンミンの姿を見つけ、ユンホはそこへ向かって歩を進めた。


どこにいても目立つ人だな、とチャンミンは思った。
それはけして、上背があるからとか、目を引く容姿だからとか、そういったわけではない。なんというか、周りの人とは違うのだ、その行動のテンポというかなんというか、すべてが。だからその場の雰囲気に溶け込めなくて目立ってしまうのだ。それを本人が気づいているかは別として。
ステージ上の相棒ユンホが自分を探していることをチャンミンは気づいていた。2人になってから、コンサート終わりには必ずと言っていいほどユンホから、「お疲れ様」「また次も頑張ろうな」といった儀礼的な挨拶が向けられる。
そして今もそのいつもの言葉をかけようと自分を探し、その視界に自分を認めたユンホをチャンミンは横目で捉えながら、同じテーブルで向き合うキュヒョンとミンホの話しに耳を傾けていた、はずだった。
「おい、リア充チャンミン。」
しかしそこにあがっていた話題は、まったくと言っていいほどチャンミンの耳には届いていないようだった。隣に座るキュヒョンにそう言われ、チャンミンはそのことに初めて気がついた。
「ああ、悪い。で、なんの話し?」
けれどこう聞き返したが、チャンミンの意識は自分に向かってくるユンホへ向けられていた。


チャンミンがいる席には、いつもの顔ぶれが揃っていた。キュヒョンとミンホだ。その2人はチャンミンにとって、ステージ外での相棒だ。それに嫉妬するような気持ちはない。ユンホにもステージを降りれば別の相棒がいる。正直なことを言えば、ステージ以外でチャンミンと一緒にいるのは少々息苦しさを覚えることもある。もう長年の付き合いで、その意識もだいぶ薄れはしたが。
もうあと少しでチャンミンたちがいるテーブルに着く、という時に、向かってきた後輩グループの一人が擦れ違いざまに頭を下げた。その顔にユンホの何かが引っかかった。それが心の中で「あっ」という言葉になった瞬間に、さっきまでのコンサートのステージ裏に設置されたモニターを見上げた時に映った青年だからだと気づいた。思わず振り返り「きみ」と声を掛けていた。確かどこかでグループ一丸で一緒くたに自己紹介された気がするが、名前は記憶になかった。だがその時も、そしてモニターに映った時も気になったのは記憶していた。それがパフォーマンスに関してのことというよりも、その容姿がどことなく自分たちのグループからいなくなった1人と似ていたからだと、ユンホは今こうして対峙して改めて思った。


自分を探しているであろうユンホのやはり少しおかしな動きを横目に捉え、チャンミンは鼻から息を抜くような小さな笑いを零した。
「お前、やっぱり聞いてないだろう。」
またしても隣のキュヒョンにそう言われ、チャンミンもまたしても「ああ、悪い」と言って、テーブルのワイングラスに手を伸ばした。その時チャンミンの目の前に座るミンホの後ろを一人の後輩が通り過ぎていった。その横顔にチャンミンはちらりと視線を投げた。勿論、その後輩はそんなチャンミンの視線には気づかない。だが目の前のミンホは気づき、そっと後ろを振り返った。
「ああ、テヨン」
そのミンホの一言に、いろいろなものが含まれていることにチャンミンも、そしてキュヒョンも気づく。2人の視線がミンホに注がれた。しかしテヨンの後姿に視線がついていっているミンホは気づかない。
「本当に良く似てますよね。」
この後輩でもあり、可愛い弟でもあるミンホという青年は、時折こうして簡単に地雷を踏むことがある。けれど何故かそれをチャンミンは怒ることができない。そこに悪意が全くないからだ。天真爛漫とでも言おうか。だからチャンミンはミンホが見ていないところで苦笑いを零した。
「あ、ユノヒョンとテヨン…」
しかしその苦笑いは、そんなミンホの一言で凍りついた。チャンミンは今度こそ真っ直ぐにユンホをその視界に捉えた。その時のチャンミンの瞳に映る2人は、まるで数年前のデジャヴようだった。
チャンミンの心を例えようのない、何とも言えない気持ちが覆った。
そしてその光景を断ち切るようにチャンミンは目を瞑った。今すぐにでも睡魔が自分を襲い、いっそ夢の中に落ちてしまえれば、とさえ思った。見たくない現実から遠ざかりたかった。

間近で見ると、思ったよりも似てはいなかった。なんだかそれにユンホはほっとした。
しかしそんなことよりも思わず引き留めてしまったことの方が今は問題だった。どうして自分はこういう時、見過ごすことができないのだろうと、少しばかり忸怩たる思いが込み上げる。
「あの…」
同じ世界の大先輩でもあるユンホに引き留められ、しかもなかなか話し出さないことに些か畏怖するように見上げた後輩は、恐縮しながら声を上げた。その様子に気づいたユンホはにこりと笑うと、目の前の後輩の二の腕を軽くポンポンと叩き、「今日、良かったよ」と、ありきたりの労いの言葉をかけた。そして「これからも頑張って」と激励した。
何を言われるのだろうと警戒していた後輩は、そのユンホの言葉に表情をパッと明るくすると「ありがとございます」と元気に答え、大きく頭を下げた。
その姿を見下ろしたユンホは、数年前を思い出す。この後輩に似た顔の男に、ユンホは何度となく誘われたことがあった。それは遊びに出かけたりやゲームなどの誘いではない。まだ十代の若い男たちの閉塞的な集団生活の中では、どうしてもおざなりにはできない問題だった。しかしユンホには、それを同性で?しかも自分の方が女役?という思いがあった。だがどこかにはグループのリーダーという妙な責任感のようなものがあったことも否めない。「なぁ、外に出て女の子とできなんだからしょうがないだろう」そんな誘い文句でベッドに引っ張り込まれた。キスも愛撫もない、ただ排泄する為だけの行為だった。だから服も身に着けたままということが多かった。それこそズボンとパンツを膝や足首にひっかけて、なんて感じに。
しかしそれでも、グループの為だったらという思いがあった。だからまだ笑っていられた。こうしてこの似た顔の男の隣に立っていても。


同じグループの兄2人がただならぬ関係だということを知ったのは、ほんの偶然からだった。
凄く久しぶりの半日だけのオフができた日だった。実家に帰ろうと宿舎を出たチャンミンだったが、マネージャーが運転する車に乗り込んだ。しかし10分しないうちに忘れ物に気づいた。次にいつ帰れるかわからない実家の妹たちへの海外公演でのお土産だった。運転してくれているマネージャーの兄に申し訳ない思いがあったが引き返してもらった。マネージャーの兄は快くそうしてくれた。また10分ほどかけて宿舎に戻った。
同じグループ内にいるすぐ上の兄2人は自分よりも先に出かけていた。残った長兄とリーダーの兄も、後から出かけると聞いていた。だからもう誰もいないものだと思っていたチャンミンは、あまり気にせずに鍵を開け玄関扉も開けた。しかしもうその瞬間に、何かがおかしいと感じた。やけに静かなのに、何故か人の気配は感じるのだ。その妙な感覚にチャンミンは意識を引き締めた。もしかしたら熱狂的なファンかもしれない、いや、もしかしたら本当の泥棒かもしれない、そんなことを思いながら、チャンミンもまたそっと静かに玄関から伸びる廊下を進んだ。
その廊下の両側にそれぞれ2人、3人に分かれた部屋がある。チャンミンはリーダーであるユンホと同室だった。その自分の部屋の扉が僅かに開いていた。その薄く開く扉の先から人の気配がした。しかしもうその時には中にいる人間が何をしているのかチャンミンにはわかっていた。


なにがどうなってそうなったのか、ユンホにはよくわからなかった。ただ気がつけば、とんでもない問題の中に放り込まれていた。
自分がグループの為と思いしていたあらゆることはなんの意味もなかったのかと、虚無感がユンホを襲った。笑えなくなった。しかし笑わなければいけない。テレビの前にいてくれるファンの為に。コンサートを楽しみに来てくれた観客の為に。それこそチョン・ユンホという自分は殺して、東方神起のユノユノとしてアイドルとして笑わなければいけなかった。
だがそんなユンホの努力を嘲笑うかのように、何もかもが別になっていく。宿舎も控室も、そして進む道も。幸せだったのは、ほんの一瞬のことだった。まるで夢のように。掴んだと思った栄光も名誉も、掌の中の砂のごとくさらさらとそこから零れ落ちていった。握った掌の中には何も残ってはいなかった。
どうしてこんなことになった?何が悪かった?俺にもっとできることがあったんじゃないか?なぜ?どうして?どうして?なぜ?その繰り返しだった。
そうして仲間3人と仕事がユンホの前からなくなった。


見下ろす先にある背中にチャンミンは冷たい声を向けた。
「あんた、ユノヒョンと付き合ってんだろ?それなのによくこんなことできるな」
当座の身の回り品をボストンバッグに詰め込んでいた長兄は、ピクリとその背を揺らし手を止めた。しかしすぐに手の動きは再開され、こちらを振り向かぬまま長兄は馬鹿にしたような笑いを乗せ答えた。
「付き合うってなんだよ。俺たち男同士だぜ」
チャンミンは腹が立つ、という感情をもうとうに通り越していた。だから逆に冷静だった。
「でも俺知ってます。ヒョンたちが何をしてたか」
もう長兄の背は揺れなかったし手も止まらなかった。ただ「そうか」とだけ返され、会話は途切れた。しかしチャンミンはその背を見続けた。この兄が何かを語ってくれるのを待った。グループのことでも、この部屋の閉まった扉の廊下の向かい側にいる今は笑わなくなったリーダーのことでも、なんでもいいからこうなった背景の小さな欠片でもいいから、その小さな欠片のそれまたヒントでもいいから、納得できる何かを語ってほしかった。
「…お前さ…キスってどう思う?」
だがその長兄から出た言葉は、今のこの殺伐とした雰囲気からはとても遠いところにある問いかけだった。だからチャンミンも思わず間抜けたような「は?」という短い言葉しか出てこなかった。
「ほら初キスはレモンの味とか言うじゃん。なんでもいいんだよ。お前が、チャンミンが思うキスってどんな感じ?」
もし今が、こんな状況ではなかったら、そして5人で顔を揃えていたら、かなり盛り上がった質問だろう。その答えが云々というよりも、それに答える人間をからかったり馬鹿にしたりと。これまではそういう仲間だった。友人だった。兄弟だった。だが今は、もうそんな場面は一生来ないだろうと思える。そんな時なのに。
「っな、今、そんなこと聞いてる場合でも答えてる場合でもないでしょうが!」
怒りは通り越していたが、やはり声が張ってしまった。チャンミンはそう答えてから一度長兄から視線を外し、閉まった扉を見遣り、頭を振った。聞こえてはいないよな、と少々不安になった。けれど長兄はそんなこと意にも介さずといった態で再び聞いてきた。
「…キス…ってどんな?」
もう既に手元のボストンバッグのファスナーは閉まっていた。そこに視線を一度落とした長兄は、くっと顔を上げるとチャンミンを振り返り囁くように、そして悲しそうな笑顔を浮かべ言った。
「…俺はユノに…一度もしたこと…ないよ…キス…」
それが何を意味しているのか、この時のチャンミンにはわからなかった。


ぱっと上がった顔に笑いが乗っていた。まだ少年の名残を残したその笑顔がユンホには少し痛かった。やはり似ているかも、とも思った。
「ありがとうございます、ユンホ先輩」
そう言った後輩は、何度も頭を下げながらユンホの元から遠ざかって行った。ユンホは懸命に笑顔を作った。あの似た顔に、こうして笑顔であっても去られるのは、どこか古傷を抉られるようだった。
あれは恋などというものではなかった。自らの夢と青春に捧げた尊い犠牲だったのだ。そして相手にとっては、ただの排泄行為。そう思わなければ、今こうしてここにはいられなかっただろう。
そう思いながらもユンホは、その場から動くことができなかった。


遠ざかっていく後輩の背を見つめ続けるユンホからチャンミンは視線を外した。そしてもう一度ワイングラスへ手を伸ばし、ふっと小さく笑うと目の前のミンホに聞いた。
「お前さ、キスってどう思う?」
あの日、自分に背を向けていた長兄の言葉、そのままだった。そしてミンホの反応も、あの時の自分そのままに「はっ?」というものだった。
「ほら、初キスってレモンの味とかって言うじゃん。なんでもいいんだよ。ミノが思うキスってどんな感じ?」
チャンミンは面白がるような笑顔と口調で、ミンホを見ずに手元のワイングラスを見つめ聞いた。それに隣のキュヒョンが、「このリア充め!」とやっかみを込めた言葉を吐き出していた。しかしチャンミンには、そんな言葉は痛くも痒くもなかった。
そして少し思案気に視線を上に向けたミンホは何度か首を傾げたりした後、答えた。
「…甘い…とか、ですか?」
その答えにチャンミンは本格的に笑った。大きな声で笑った。涙が出そうなほど笑った。それにミンホが「なんで笑うんですか」とアルコールで赤くなった顔をさらに赤くさせながら言った。チャンミンはとにかく笑いが止まらなかった。


急に背中で大きな笑い声があがり、ユンホは驚き振り返った。その笑い声の主はステージ上の相棒チャンミンのものだった。
余程面白いことがあったのだろう、チャンミンは腹を抱える勢いで笑っていた。しかしチャンミンの隣に座るキュヒョンは驚き顔で、目の前に座るミンホは少々困惑気味の表情を浮かべていた。
いつもならあまり場の雰囲気を読んだりしないユンホは、そんなチャンミンに近づいただろう。しかし何故か近づけなかった。鈍感なりにも働くレーダーはあって、そのレーダーが今は近づくなと警報を発していた。
だからやはりユンホは、その場から動くことができなかった。


どうしても長兄が残していった言葉の意味がわからなかった。そしてどうしてもその意味を知りたいとチャンミンは思った。
だからチャンミンは、本当にこれは最後になるだろうとわかった上で、もう長兄ではなくなった男に電話を掛けた。
数回の呼び出し音のあと、彼は少し笑いながら電話に出た。「かかってくると思ってた」とも言った。その言葉にチャンミンは少し腹立たしかった。聞きたいことを早く聞いて、電話を切りたかった。
しかしチャンミンが口を開く前に、彼は話し出した。チャンミンが何を聞きたいのかがわかっていたからだ。
「じゃあ、まず教えてよ」
これはあの時の問いの答えを求めているのだと、すぐにわかった。それにチャンミンも、これを答えなければ先に進まないこともわかっていた。
「甘い、とかですか」
正直キスのイメージと聞かれても、よくわからなかった。映画などのキスシーンを見てもキスはキスでしかありえないし、そこにイメージなど持ったこともなかった。だからなんとなく、思い浮かぶ言葉を言った。とりあえず答えておけ的な感じだった。
「そうか、キスって甘いんだ」
しかし思いの外、相手の返答が真面目だった。笑い飛ばされるかもしれないと思えるほど陳腐だということにチャンミン自身気づいていたから。だがこの反応に、チャンミンは居た堪れなくなった。
「だったらやっぱりユノとしなくてよかったよ。そんなの知っちゃったらさ、マジで離れられなくなるって。」
この答えに、さらにチャンミンは居た堪れなくなった。そして体の内側から、何かがせり上がってくるようだった。
「…なんで…なんで?離れなきゃよかったじゃん。離れる必要なんてなかったじゃん。どうして?どうしてだよ…ヒョン…」
電話の相手のことを「ヒョン」と呼んだのは、凄く久方ぶりだった。だからだろうか、チャンミンの目からは涙が零れていた。
「…チャンミン…ごめんな…」
彼には彼の事情と正義と、その他諸々があったのだろう。だがけして許すことはできないと思う。それはグループを離れたことは勿論だが、ユンホへの仕打ちの方がチャンミンの中では大きかった。ユンホをとても好きだからとか、そういうことではなく、人間の行いとしてどうなのだという部分で。
「…好きって言えばよかったじゃん、キスしてやればよかったじゃん、ちゃんと付き合ってればよかったじゃん…」
あとからあとから止めどなく流れてくる涙を拭いながら、チャンミンは訴えるように言った。それに電話の向こうの男は答えた。
「あの馬鹿がつくほど真面目で真っ直ぐで責任感が強くて、俺は男だって主張する奴が男となんか付き合うわけない。」
「だからって!…」
「俺は狡くて悪い人間なんだ。ごめんな、チャンミン」
こんなことを知りたかったのだろうか。これが自分の求める答えだったのだろうか。チャンミンは少しばかり電話を掛けたことを後悔した。それでも何か、もっと違う答えが欲しくて、チャンミンは聞いた。
「あんたは…ヒョンは…どんなもんだと思ってるんですか?」
もう涙は出なくなっていた。しかしその名残を拭い去るようにして目元に一度指を持って行った。しかし相手からの答えは、なかなか得られない。それこそもうそこにいないのではないかと思えるほどの沈黙の後、小さな声が届いた。
「セックスよりも大事なもの」
だからこそできなかったんだよ、と続いた声は僅かに涙声だった。そしてそのまま電話は切れた。もうこの人の声をこうして電話を通して聞くことはないだろうと、チャンミンはぼんやりと思った。


足をばたつかせ腹を抱え笑うチャンミンに、さすがの親友も可愛い弟も、しばし呆然となっていた。
しかしチャンミンはそんなこと関係ないとばかりに笑い、そして体を前のめりにさせ目の前のミンホに手を伸ばした。その肩をばしばしと叩き、最後はその手をそこに留めさせると言った。
「キスってさ、セックスよりも大事なもんなんだよ。」
その言葉にユンホはチャンミンを振り返った。チャンミンもまたユンホを見ていた。間違いなくその言葉は、チャンミンが手を置くミンホに向けたものではなく、ユンホに向けられたものだった。
ユンホは咄嗟にチャンミンの視線から逃れ前を向いた。やはり遠い日の記憶が蘇る。


まだまだ幼かったのだろうか。自分では大人になったつもりでいたが、結局長兄だった男が残した言葉の半分も理解できていなかった。
それでも自分たちは進まなければいけない。例えそれがグループの解散ということになっても、このままここに留まるわけにはいかないのだ。
「これから、どうしますか?」
だから部屋に閉じこもるユンホに問いかけた。正直自分はどうでもよかった。解散でも続行でも。だがユンホから返事はない。そして思う、この人は何に一番傷ついているのだろうかと。グループが宙に浮き、いつでも空中分解しそうなことにだろうか、それともあの人がいなくなったことにだろうか、どちらでもあるだろうが、その憔悴さをより大きくしているのはどちらなのだろうと思った。
「ヒョン、ユノヒョン?」
別にこの人が好きだとか、あの人に嫉妬していたとか、そんなことはけしてなかった。それこそ自分には恋人もいるわけで欲求不満ということもなかった。
だがその時、耳の奥で「セックスよりも大事なもの」という、あの人の声が響いた。そして気がつけば、その声を聞きながら、チャンミンはユンホにキスをしていた。やっぱり甘いな、と思った。しかしとても、泣きたくもあった。


あの日からチャンミンが恋人を絶やすことはない。そして自分もステージを降りれば必要以上にチャンミンに関わらなかった。
自分たちは2人で東方神起をやっていくと決めた。ステージの上では全力を傾けると誓った。
だから儀礼的な挨拶を欠かすことはなかった。
だが自分たちはチャンミン曰く「セックスよりも大事なもの」で繋がっているらしい。ユンホはもうチャンミンを振り返らなかった。そして前を向きチャンミンが座る場所近くから離れていった。
この先もし似た顔の後輩と顔を合わせても、もう古傷が痛むことはない気がする。ステージ上のシム・チャンミンという相棒がいればそれでいい、誰も何も知らなくてもそれでいい、ユンホはそう思うと少し笑った。





~おわり~





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