ふくらむ・はじける(ベッキョン×D・O)


移動用のバンの中で一人、ギョンスは大きく息を吐き出した。
その反動でこれまた大きく息を吸い込むことになり、ここまで息をするのを忘れていたのではないかと思ったほどだった。
この日はKのメンバーのみでのCF撮影だった。そのスケジュールをすべて終え、帰り支度が終わった者から車に移動するようにとのことだった。
ギョンスはとにかく一人になりたかった。この状況から、その時間を長くとることはできないとわかっていたが、とにかく一人になる時間が少しでもいいのでほしかった。だから衣装から私服にさっさと着替え、メイク落としもそこそこにメンバーから離れ、ここにやって来たのだ。
乗り込んだバンの最後列の奥にギョンスは腰を落ち着けた。漸くその息も穏やかで、いつもの意識しないそれになった頃、ギョンスの目の端に人影が入り込む。思わずギョンスはそちらを向いた。
「隣、いい?」
そう聞きながらも、既にベッキョンはそこに座っていた。その姿にギョンスは僅かに驚いた。ギョンスが一人になりたかった原因でもあるし、メイク落としなどには人一倍時間をかけるはずのベッキョンが、こうしてまるで自分を追いかけるように乗り込んできたからだ。
ギョンスはベッキョンに聞こえないでほしいと願いながら、唾をごくりと飲み込んだ。しかし思ったように喉は湿ってはくれず、上手く声が出せそうにはなかった。しかしギョンスは何かを言わなければと、その口を開いた。
「…お前、ああいうのやめろよ。」
この日の撮影の最後は、メンバー皆で横並びになり、通行禁止にした街路樹訳10メートルほどを仲良く歩く、というものだった。メンバーの並び順だけは画面の絵面の関係で決まっていたが、その細部までは特に指示がなかった。それと編集の都合上の撮れ高確保の為に4パターンを撮るということは決まっていた。そして3パターンまでを撮り終ったところに来て、ディレクターから「最後のテイクはもっと親密そうに」という指示が出た。そうは言われても、これ以上どうやって?とメンバー顔を見合わせながら苦笑いして、さっきより少しだけ大袈裟にすればいいかと示し合せ、最後のパターンの撮影が始まった。
指定された並び順は向かって左からチャニョル、ジョンイン、ジュンミョン、ベッキョン、ギョンス、セフンだった。そんな中ギョンスの左隣のセフンがギョンスの肩を叩き、振り返ったギョンスの頬にセフンの指が刺さる、という子供時代にありがちな遊びを振って来た。とはいえセフンなどには、今でもありがちな遊びであり、これは撮影なのだ。ギョンスは遊びを仕掛けてきたセフンと笑いあった。すると逆隣のベッキョンもギョンスの肩を叩いた。もしこれが撮影ではなかったら、ギョンスは振り向かなかったかもしれない。どこかギョンスはベッキョンに対して冷たくしてしまうところがある。それはチャニョルにも言えることなのだが、きっと同じ年齢だからだろうとギョンスは思っていたが、ベッキョンに対しては特にそれが強くなってしまっていた。
そして今は撮影だ。仕事なのである。私情を挟むわけにはいかないし、特に今はアイドルとしてグループの<親密さ>を求められている。特にこの国のアイドルには、それを強く求められる時がある。女性アイドルグループの一員や女性芸能人とへたに熱愛されるくらいなら、同じグループの同性同士でのほうが数万倍いい、と思っているファンが多くいるのだ。現にそういったカップル売りという売り方をするグループもある。自分たちのグループには、あまりそういった傾向はないが。
「…なにが?」
本当にわからない、というようにベッキョンはきょとんとした顔で答えた。そのベッキョンの様子にギョンスは若干苛ついた。この話題を振ったのは自分だが、こんなことを言わせるのかと、ギョンスは大きく溜息を吐き出すと前を向き言った。
「いくら撮影だからって、普通しないだろう…キスとか…」
これは撮影だ、と心に言い聞かせギョンスは振り返った。肩を叩くベッキョンの掌、振り向いた時に間近にあったベッキョンの瞳、頬に触れたベッキョンの薄い唇、その全てに熱がこもっていた。これが撮影で良かった、とギョンスは思った。そう心に言い聞かせ振り返ったから、アイドルグループEXOのD・Oとしての表情を崩さずに済んだのだ。
「…俺、普通じゃないし…」
そんな答えを返すベッキョンに、ギョンスは再び顔を向けた。そこにはギョンスを向くベッキョンがいた。何を言っているのかわからないというようなきょとん顔のベッキョンは、もうそこにはいなかった。さっきと同じように熱を孕んだ瞳を向けるベッキョンだった。だからギョンスは思わず、そのベッキョンの視線から逃れた。そして何かを言おうと口を開きかけたが、先にベッキョンが言葉を放った。
「…俺、ギョンス見てるとおかしくなる…」
どくり、とギョンスの心臓が一段高い音を奏でた。唇が渇いていく。それを湿らすようにギョンスは自分の唇を噛んだ。そしてゆっくりとベッキョンを向いた。
「俺の中に風船があるんだ」
そんな訳の分からないことを言いながら、じりじりとベッキョンが近づいて来ていた。思わずギョンスも自分の体を後退させた。しかしそこは車の最後列の奥、もうそれ以上後退させる場所はない。それでもベッキョンの顔は体は言葉は、ギョンスに迫っていた。
「その風船がさ、ギョンス見てると膨れていくんだ」
そういうベッキョンが、まさにギョンスにとってみたら膨れる風船のようだった。自分とそれほど大きさの変わらない箱に、その風船と一緒に入れられているような感覚だった。

パン!

ギョンスの耳に確かに風船のわれる音が聞こえた。もう後退できないギョンスの体は、腰がシートからずり落ち、車の床に尻餅をつく形になった。シートの列と列の間、大人の男がすっぽりと挟まるくらいの隙間にギョンスは仰向けた格好で落ちた。そんなギョンスを誰からも見えないようにと、ギョンスより少しだけ背の高いベッキョンの体が覆い被さっていた。
さっき頬に感じた熱い唇を、ギョンスは今、自らのそれで受け止めていた。やはり熱い、とギョンスは思った。そして自らの中にも風船はあったのだとも思った。
だからギョンスはそっとベッキョンの背に手を伸ばし、その指先で触れたシャツをぎゅっと握った。もう暫く、残りのメンバーが来ないことを祈りながら。



~終わり~



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Comment

ありがとうございました…!;;

みむ子様

こんばんは!

コメントするのが遅くなってしまい申し訳ありません!
読ませていただいてから今日まで少しばたばたしていまして(泣)

でもご連絡いただいてからすぐにお伺いしておりまして、なんと温かなお心遣いだろうと思い感激しておりました!!
しかも私のいちばんの萌えカップル、ディオとベッキョンで…!
あのCMは私も見たことがあるので嬉しさもひとしおでございました!!
おお~これをもっと真面目にやったのを見たいのよ…見たい…見たいなあ…と土台無理なことを望んで勝手にもやもやしていたことを思い出しました←
しかしこうしてみむ子様に書いていただいたことで少し気が晴れました(笑)

シートの隙間に落ちてしまうディオがとてもキュートで、文字通り落ちたことを体現していて、窮屈なところで重なり合うふたりが目に浮かびました。
あと、風船の描写がすごく素敵でした。
怖いけれどどうしても気になってしまうし、自分もただではすまないということを見事に表していて、胸キュンしました><

お忙しいのに、そしてリクエストも控えてらっしゃるのに、こんなふうに私に向けてお話を書いてくださり、ほんとうにありがとうございました。
すごくすごく嬉しく、申し訳ないくらいでございました;;

そして、リクエスト作品がやはりとっても楽しみでして、私も次の機会がもしあったならさせていただこう、と思ったりしております^^

それではまたすぐお伺いいたします!!
みむ子様は明日から連休になられるのでしょうか?
もしそうならば楽しいお休みをお過ごしください!
お仕事ならば、お天気が悪いようですので足元などお気をつけください(今既に雨が降っておりますね)!

少し早いですが、おやすみなさいませ(__)


フェリシティ檸檬



Re: ありがとうございました…!;;

レモン様、こんばんは~♪

コメントありがとうございます!
私の方もお返事が遅くなりました('_')
すみません<m(__)m>
この時期は何かと忙しいですね。
そんな中コメントいただけて、本当に感謝でございます。

ベッキョンとD・Oのお話、喜んでいただけたようで嬉しいです。
あのCM、私には少々衝撃でした(笑)
そして確かに、もっと見たいとも思いました><
だからこそ、結構さらっと書けましたし、私も「よし!」となりました^m^

私がこれまで書いてきたD・Oとは少し違う側面をクローズアップしてみました。
これまでは陰鬱な感じを前面に出してきたんですが、今回は少し控え目なD・Oということを念頭に置き、攻めのベッキョンに押され、でもそこにはちゃんとD・Oの気持ちもあって、けしてベッキョンに攻められ押され流されたからではないということを表現する為に風船というアイテムを使った描写にしてみました。
そんなD・Oだったのでキュートに表現できていたのかなと思います^m^

シートの隙間で重なり合う2人は書く前から私の頭の中にイメージがあって、そのために車でふたりきりにさせるシチエーションにしました。そのシーンが目に浮かんでくださったということもすごく嬉しいです。

ベクドカップルは書いてみたいひとつだったので、私も凄く楽しく書けました♪
ですので、お礼のお話といっても自分のために書いたような部分もあるのですよ~(#^.^#)
だから申し訳ないなんて思わないでくださいね(^o^)丿

そしてリクエストですが!
楽しみにしていてくださっているということも嬉しいです。
そのお気持ちにお応えしたいと思ってはいるのですが…。
ああ、とにかく!明日公開になるので、少しでも楽しんでいただけたらなと思います。
そしてそして、次回のリクエストの時は是非!(笑)

私もまた伺います!
レモンさんが素敵な夏を過ごせていますように♪
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Author:みむ子
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